私が生まれる前から、実家の庭の片隅には、梅の木がある。何という品種の木かはわからない。
毎年、実を成らせて、たいてい梅酒か梅干しを作っている。梅の実を収穫するのは、父の仕事である。今年は、梅酒と梅サワーを作ってみた。母は梅ジャムを作ってくれた。
梅の木は、幹はゴツゴツして男性的なのに、花は香り高く可憐で清楚な女性のよう。そして、しっかりと根をはっている姿は、生きる力を与えてくれている気がする。
青緑色から黄色や橙色に色づいた梅の実は、杏のような甘酸っぱい香りがする。梅の実の香りをいつまでも嗅いでいたいという気にさせられる。梅の香りは、どうしてこんなに惹きつけられるのだろう。
木のいのちには、寿命がある。
人のいのちにも、寿命がある。
木も人も、生きているものは、いつか、老いて枯れてゆく運命だが、死ぬ瞬間が訪れるまで、いのちを大切にしなければならない。
老いることや枯れることは、醜いことでも恥ずかしいことでもない。病気になることや死ぬことも、本当はこわいことではない。
死ぬときは、ただ、自然に包まれながら、自然に帰っていくだけのことだから。本当の死は、あったかくて、幸せのはずである。
今年の梅の味は、どんな味がするだろう?同じように仕込んでも、毎年、違う味がする。今から楽しみである。
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