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あをによし 奈良の都の 薬草曼荼羅

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青い光に照らされる孤独と寂しさ

2010年3月17日(水)付の朝日新聞夕刊の7面に、「人の価値が下がる時代 張りつく薄い寂しさ」(宮地尚子)という記事があった。それを読み、それからずっとこの記事のことが、いつも頭のどこかに張りついていた。

自殺者が年間3万人を超える今の世の中。電車通勤をする私も、時々、人身事故で電車が遅れるという事態に遭遇する。そして、電車での人身事故に遭遇することで、私は、人身事故をおこした人の想いや人生に気持ちを傾けることなく、「どうしよう、仕事に遅れる」などという、自分のことばかり考えていた。

去年のある日、やはり人身事故で、電車が止まったとき、私は運よくタクシーに乗ることができた。そのとき、タクシーの運転手さんに電車が止まっていることを告げたら、その運転手さんは、ひとこと、「かわいそうに」とおっしゃった。その言葉を聞いたとき、私が自分のことばかり考えて、他人のことを思いやることができない冷たい人間だと思い知った。

この新聞記事で書かれている通り、「人身事故という放送に驚きと憐みを示した時代から、苛立ちに舌打ちする時代へ。やがてそのことへの良心の呵責も消え、もはや諦めが覆い、車内には薄い寂しさが漂う」。まさに私自身だった。

私たちは、会社や職場で、「使える」「役に立つ」「能力のある」人間であることを求められる。しかし、人間として生きていく社会で、いつもそのことばかりを求められていては、ストレスはたまる一方である。仕事である程度、能力が求めれられるのは当然のことではあるが、私たちは、すべてにおいて、「使える」「役に立つ」「能力のある」人間であってはならない。「役に立つ」ということは、良いことばかりではないのだ。本当は、役に立たなくても、「認められる」「愛される」社会を作らなければいけないのだ。しかし、「役に立たない」と思いこんだ人は、精神的にどんどん追いつめられていってしまう。「役に立たない」という思いは、無意識のうちに、人としての価値を下げていき、いつしか生きる目的や希望を失わせてしまう。

ちなみに、自殺者が最も多いのは、3月1日。最も少ないのは12月30日だそうだ。曜日では、月曜日が最多で、土曜日が最小らしい。厚労省は、「生活の変わり目に自殺のリスクが高まる」と分析しているが、生活が変わる前に、精神的なストレスや疲労のサインはいくらだってある。3月から4月にかけては、別れと出会いの季節であるが、桜の花びらが散った後にこそ、葉桜のように生きる喜びに満ちあふれるかもしれないのに、それに気付かずに、桜とともに散ってしまう人もいる。


ところで、私の地元駅のホームの隅に、青い光が照らされている。最近、駅のホームによく設置されている青い光は、「人の心を落ち着かせる心理的な鎮静効果」があるという、自殺予防のための照明である。本当に効果があるのかはともかく、社会や個人の根本的な問題が解決されなければ、おそらくあまり意味がない。

今、人のこころやいのちが、青い光に照らされている。しかし、人工的な青い光からだけでは、人としての価値や生きる目的を照らし出すことはできない。ホームの隅っこの青い光は、人の寂しさや孤独感をいっそう強めているのではないか。そんなことを考えるのは私だけだろうか。

tone
by tonepedra | 2010-04-13 19:33 | 社会/環境